歌うことは、生きること

 

歌うジョンデが好きである。彼の歌には、歌への溢れる愛と、そして「歌を歌って、生きていく」という、決然たる覚悟が感じられるから。

 

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究極的には、彼が元気で歌ってくれてさえいれば、どんなスキャンダルが出ようが、前髪がつんつるてんになろうが(しつこい)、お腹に肉が乗ろうが、たぶんずっと好きでいられると思う。

 

どうしてこんなにジョンデの歌が好きなんだろう。好きな歌手はたくさんいる。素晴らしい音楽を聴いて、感動して泣いたこともある。でも、私の心をこんなにダイレクトに揺さぶり、まるでティーンエイジャーのような気持ちにさせるのは、キムジョンデの歌声だけだ。

 

 

 

私は歌唱力は「音感、リズム感、声量(パワー)、テクニック」だと思っている。優れた歌手はこれらの組み合わせで、歌のもつメッセージを表現する。もちろん、多少パワーがなかったり、テクニックがなかったりしても、心に届く歌を歌う人もいる(リズム感と音感は、これは致命傷)。

 

逆にこれらの全ての要素を持ち合わせていても、残念ながら「上手だけど、心には響かない」という人もいる。聴き手側の感性だって様々だから、歌唱力の定義なんて曖昧なものとも言えるけれども。

 

表現に関して言うと、いかに自分を客観的に見られるかも、大事なポイントだろう。どんなに上手くても、最初から最後まで声を張り上げられるのはマスターベーションのようなもので、自己陶酔型の歌手の歌は、どれほど声量やテクニックがあろうが、疲れてしまう。プロの歌手として歌の持つメッセージを聴き手に伝えるには、客観性と知性が必要なのだ。

 

EXOのメインヴォーカル3人は、そういう意味ではデビューの頃から、ちょっと寒気を覚えるほどに「仕上がって」いる。それがSMの徹底したコントロールによるものなのか、彼ら自身の明確な意志によるものなのか…デビューの時点では前者の要素が強いのかもしれないが、そこから7年、順調に年を重ねて、彼らはそれぞれ「自らの表現世界」を確立したように思える。

 


130817 Immortal Song 2 Chen & Baekhyun - Really I Didn't Know

 

2013年。まだまだ若手のベッキョンとジョンデ。この時点で末恐ろしいほど完成されているのに、ここからこの2人がまた驚異的に上手くなるとは…彼らがどれほど努力したかを想像するにつけ、奇跡を見るようで感動する。

 

客観性と知性。この観点で言うと、キムジョンデという人の歌は、驚くほど緻密に計算されていると思う。特に最近の丁寧なバラードの歌い方を見ていると、彼が「自分が表現したいこと」にこだわって、考えに考え抜いて歌を歌っているように、私には思えてしまう。

 

 

人の心に寄り添い、届く。それも、世代も性別も越えて。

 

これは私の贔屓目かと思っていたけれど、ソロデビューのアルバムが発売されて以来、韓国の音楽配信サービスのリスナー構成の推移を見ると一目瞭然*1であった(しつこく調べ続けるオタク)。

 

先ほど書いた通り、最近のジョンデの歌には、彼が考えた「歌の持つメッセージを表現するために、このパートはこう表現する」という、非常に緻密な計算が感じられる。でももっと大切なのは、その「緻密な計算」の上に、彼が何を伝えたいかだ。

 

ジョンデ本人は、今回のソロアルバムの方向性を決めたのは、ギョンス主演のドラマ「100日の郎君様」の主題歌、「桜恋歌」であると語っていた。これまで彼はたくさんのサントラに参加しているが、初めてこの曲を聴いた時、私は彼の「心に寄り添うような」丁寧な感情表現にハッとした。

 


벚꽃연가 - 첸 (CHEN) │ 백일의 낭군님 OST

 

EXOの中で存分に証明されているように、この人はロックも歌える、とにかく「声の出る」人だ。声量があるというのは、歌っている本人はさぞ気持ちが良いだろうし、ついそのパワーを使いたい気持ちにもなるだろうに、一連のバラードにおいて、ボリュームの調整からビブラートのかけ方まで、ジョンデの表現はあくまで細やかで、むしろ禁欲的と言っても良いほど、あっさりと控えめな味付けの歌い方である。

 

ジョンデ自身が「癒しを与えたい」と何度も言っていたように、彼の歌の根底には、人の心に寄り添いたいという思いが強くあって、それゆえに「パワーに頼らず、聴き手に解釈を委ねるような、余白のある」歌い方を選択しているように思える。けれど同時に、それはまるで聴き手への問いかけのようで、気楽に聞き流すには全く不向きだ*2

 

それの最たるものが、彼のソロアルバム。

 


CHEN 첸 '사월이 지나면 우리 헤어져요 (Beautiful goodbye)' MV

 

ピアノとストリングス、そして最小限のリズムトラックだけで構成された、バラード6曲。今の時代に逆行するようなクラシカルな音作りは、だからこそ普遍性が極めて高く、また同時に、世界のどこでも、おそらく10年、20年経った後でも、ピアノさえあれば再現できる音楽だった。6曲の中で繰り返し描かれるのは「別れ」で、これもまたタイムレスなテーマ。

 

重い。美しく、素晴らしい仕上がりだけれど、はっきり言って重いアルバム。

 

隅々まで彼のこだわりが溢れているのが伝わってくるし、ジョンデのヴォーカルも恐ろしく丁寧で緻密で、あまりにも感情を揺さぶられるので、気楽に聴ける作品とは到底呼べず、そういうところも全く「今っぽく」ない。

 

 

アルバムが発売された当初は、キムジョンデの描く世界にただただ圧倒されたが、発売から3ヶ月が経過し、ベッキョンやSCのアルバムが発表されたことで、よりその対比が鮮やかになったと思う。彼らのアルバムが「今」の空気感を、瑞々しく完璧に切り取ったものだっただけに。

 

加えて、彼が自らのYouTubeチャンネルで取り上げる楽曲たちもまた、普遍性のあるバラードばかりだ。美しいバラードを、彼は母国語で、それはそれは丁寧に歌い上げている。

  


Cover by CHEN - '밤편지' (아이유)

 

私の母語は日本語だから、ジョンデが伝えたいことを100%受け取ることはできないかもしれない。でも、それでもなお、ジョンデの歌声は心に響く。歌詞がわからなくてもどんな感情を伝えようとしているかはっきりと受け止められるって、本当に凄いことだと思う。

 

 

 

…とまあ、つらつら理屈を並べてみたものの、結局のところ、私はジョンデの声がどうしようもなく好きなのだ。歌い出しのわずか数秒だけで、彼の歌声は私の心に(辛うじて)残っていた、弱くてナイーブなところを、優しくきゅっと掴む。

 

 

EXOの楽曲はどれもこれも一癖あって、その中で輝くジョンデの声を聴くのも、もちろん最高だ*3。でも、ジョンデがソロで見せてくれる世界には、この人の「生き方」や、歌のプロフェッショナルのしての姿勢が垣間見える気がして、ソロ活動以降、私はますます彼を好きになった。

 

新しい曲を聴くたび、知れば知るほど、良い人を好きになったと思わせてくれるキムジョンデ。そもそも才能のある人が、たゆまぬ努力で更に進化できるのだと証明してくれた人。この先もずっと、彼の好きな歌を歌い続けて欲しい(結局最後はラブレター)。

 

 

 

*1:いわゆる「男性アイドル」と聞いて一般的にイメージする層(10代〜30代の女性がボリュームゾーン)ではなく、発表からしばらくして「男女構成比がほぼ半々、40代以上のリスナーが20%以上」という、およそアイドルらしからぬグラフに落ち着き、その構成比を維持したまま3ヶ月が経過している。

*2:こう聞くと「それって癒しなの?」と思われそうだが、少なくとも私は、彼の歌を聴き、感情を揺さぶられ、果ては内省することで、不思議なぐらい癒やされている。

*3:EXO楽曲の中で一つだけ不満があるとしたら、彼の声の性質上、どうしても「ここで声を張りますよ」というパートが回ってくること。それはそれで素晴らしいことだけど、この人はもっと色んな声の出せる、懐の深い歌手だと思うけどな…という思いが拭いきれなかった。グループの中だから役割分担があるし、当然なんだけどね。だからソロやOSTで色んな声を聴かせてくれるのは、音楽オタのジョンデペンとしては至福である。