ギョンスとジョンデについて書いた、後編はこちらからどうぞ…
一時期、オタク先輩である妹と私の間で流行っていた遊び(?)があります。それは、K-POPのアイドル楽曲を聴いて、「この曲をEXO(あるいは他のグループ)が歌うなら、どのパートを誰が歌うか」をそれぞれ考えて、答え合わせをするというもの。
本家本元の方達にとっては申し訳ない話ですが、これが実に面白く、そして(同じような音楽を聴いて育った姉妹だからということもあるのでしょうけど…)意見は毎回、驚くほど一致します。特にEXOに関しては、ほぼ完全一致です。
とは言えこれは、EXOのメンバーそれぞれの個性がはっきりしているからこそ成り立つ話かもしれません。練習生時代にみっちり鍛えられる韓国のアイドル達は、私の見解ではその期間が長ければ長いほど、基礎力は上がりつつも、ある意味没個性化と言うか、その事務所のカラーに染め上げられていくことが多いと思うのですが、EXOのメンバーは、その点奇跡的なほどそれぞれの個性を残したまま「仕上がって」いると思います*1。
最近急にこのことを思い出したのは、CIXのMovie Starという曲を聴いたから。
Twitter上で、「SMが切った*2MZMC(プロデューサーチーム)がプロデュースしてるこの曲がめちゃくちゃかっこ良くて、全体的にEXOっぽい」と言われているのを見て、どれどれと思ったのがきっかけです(私が興奮して知らせた時には、妹は既に知っていましたね…さすがです、オタク先輩)。
聴いてみて、非常に納得しました。確かに、EXOっぽい。聴いていると、「ああ、最初のこのパートはチャニョル、その次はベッキョン…」と、ありありとイメージが浮かんで来るし、SMが買い付けていたとしてもおかしくない雰囲気の曲で、実に、MZMCの音*3。メロディの耳馴染みが良く、気づけば口ずさんでしまう、そんな音楽。
こんな感じで、最近は、CIXのようにSME以外のK-POPも聴くし、もちろん引き続き洋楽(主にR&BとHIP HOPですが、割となんでも聴きます)や、中華圏の音楽やラテンポップスも聴きます。
それでも結局、最終的に戻ってくるのはEXOの音楽で、ここ1週間ほど、私はその理由をずっと考えていました。
もちろん、そもそもの楽曲が良いのは大前提。ビジュアルが強いのも間違いないけれど、私は圧倒的に視覚より聴覚が重要なので、これが決定打になるかというと、そうでもないんです。あくまで私にとっては、ですが、考えてみたらここに尽きました。
EXOのメインボーカル3人、規格外過ぎません??
いや、言わずと知れたことなんです。敢えて私が何か言うほどのことでもなく、当たり前のことなんです!
でも、EXOのこの3人、中でも特に、ギョンスとジョンデは一般的なアイドルの枠から逸脱していると、最近特に思うようになりました。ベッキョンは、これはもうアイドルボーカルにおけるエクセレンス、最高峰で、これまた規格外の才能だと思います。
というわけで、いつも通り前置きがまた長くなりましたが、今回はEXOのメインボーカル3人がいかに規格外かについて、考えてみたいと思います。
実は3人分、一気に書こうかと思っていたのですが、思いが溢れ過ぎてまた長文化してしまったので、前後編に分けることにしました。今日はまず、SMEが世界に誇る天才アイドル、ベッキョンからです。
規格外の、その才能
ベッキョンのその圧倒的な器用さには、いつも驚かされる。コンセプト消化力、楽曲への高い理解力、そして何よりも、フレージングの上手さ。
ここでいうフレージングとは、例えるなら絵画における絵の具の塗り方のようなもの。一本の木を描くとしても、単色でベタッと色を塗るのか、様々な色を使って、濃淡をつけて色を塗るのか。点を重ねて描写するのか、すうっと一続きに筆を運ぶ、墨絵のような表現をするのか。ベッキョンの歌を聴いていると、その曲その曲に合わせた歌い方、表現の選択が見事で、いつも感心してしまう。
EXOの中で一番、今の音楽シーンに適応した歌い方ができるのは、間違いなくベッキョンだと思う。少なくとも「EXOの楽曲の中で」ボーカリストとして総合点を付けるなら(そんなことはナンセンスだが、敢えて付けるなら、である)、私は僅差でベッキョンを1位にするかもしれない。もちろん皆それぞれに強みや良さがあるのだが、ベッキョンの声はEXOの楽曲の中で燦然と輝く「華」である。
ベッキョンは声量もあり、音域も広い。どの音程で歌っても伸びやかに声が広がる。そしてパワーとテクニックはもちろんのこと、私がいつも素晴らしいなと思うのは、音と音の間を自由自在に漂うような、彼の独特の声のコントロールである。
[STATION X 0] 백현 (BAEKHYUN) X 로꼬 'YOUNG' MV
例えばこの曲。ベッキョンはこういう「後ろでよく鳴る」音に、(まるで楽器の一つになったかのように)自分の声を馴染ませるのが、すごく上手。
この曲なんて、後ろでお三味線のような(表現力の乏しさ…)シンセがチャカチャカ鳴るし、単調なコード進行だし、Locoさんのラップが入ってくるとは言え、一つ間違えば後ろの音に呑まれるか、あるいは単調で面白みに欠ける曲になりかねない。ここで「音と喧嘩せず、でも存在感は確かにある」という歌い方ができるのは、さすがのセンスとしか言いようがない。
大きなエンジン
UN villageも、まさにそんなベッキョンの真骨頂。私はこの曲でのボーカルを聴いて、やっぱり彼は天才だと改めて思った。
この曲の中にはそれほど声を張るようなパートはないけれど、1フレーズがすごく長い箇所がいくつかある。特にライブで歌っているのを聴くと、「あれ、どこで息継ぎしてる?」と思うぐらい、フレーズのつなぎ目が極めて滑らか。良いテイクを繋ぎ合わせたレコーディング音源でそういう仕上がりになるのは当然としても、ライブでそれが再現できるのは、すごいこと。
例えて言うなら、大きなエンジン。軽自動車とスポーツカーでは、同じ速度を出すのでも、かかる負荷が大違いだ。ベッキョンの声のコントロールがここまで自由自在なのは、元々声量がある人が余裕を持って歌っているからこそだと思う。
そしてこういうR&Bのセンシュアルな感じ、これは声を張るだけでは絶対成立しない世界。だからこそ、曲の中でどうメリハリをつけて歌うか、歌手の知性と表現力、センスが問われる。グループの中ではどうしてもパートが短くなりがちで、ベッキョンのフレージングの上手さを100%味わえることはなかなかないので、これには本当に唸らされた。息をたっぷり混ぜた、色気のある声の出し方も、すごく上手。
その世界を、生きること
見れば見るほどビョンベッキョンって見せること表現することにかけて天才過ぎない?ジョンデが物語の神様を連れてくる「語り部」だとしたら、この人は芸の神様が降りてくる巫女って感じがする…(なんだかスピリチュアル的になってきてしまった🤭)
— 𝔸𝕡𝕣𝕚𝕝 (@kjd_april) 2019年7月12日
https://t.co/cDBtjF63Ju
EXOにおいても、ソロ活動においても、ベッキョンのパフォーマンスを見ていると、芸の神様が「降りてきている」ような印象を受けることが、しばしばある。彼自身が、その音楽の世界の中で生きる人そのものになってしまうような、そんな感覚。だから彼の顔は、曲によってくるくると自在に変化する。
Twitterでは何度か、ベッキョンはI know what you wantの天才だと書いたことがある。その場、その曲の中で、何が求められているのかを察知して、アウトプットする能力。コンセプトありきのK-POPにおいて、この能力は必須条件だと思うが、それで言うとベッキョンは本当に天才。彼もまた努力の人だと思うが、努力だけでは説明しきれない天性の輝きが、彼の歌にはあると思う。
ベッキョンを見ていると、「こういうのが見たいんでしょ?聴きたいんでしょ?」と、まるで彼から問いかけられているような気持ちになる。求められているものを察知して、最高の形で見せてくれる、スーパーアイドル。彼のそれは、もはや特殊能力と言ってもいいレベルだと思う。
EX’ACTのインタビューの中で、ベッキョンは「人は自分自身を客観的に評価することはできない、自己評価はえてして高くなりがちだ(から、人が変わるとしたら内的要因ではなく、外的要因だ)、人が良くできたと言えば自分も良くできたような気がするし、その逆も然り」という主旨のことを言っていたが、個人的には、この答えはとてもベッキョンらしい気がする。
彼の音楽が聴きたい
どんな時でも、最高点を叩き出せる能力(またジョンデの回で詳細を書こうと思うが、この辺りも、ベッキョンとジョンデは対極にいるように見える)。何にでも化けられるベッキョンの柔軟性は、とてつもない強さなんだろう。
でも同時に、何にでも染まれる、どんな音楽でも最高点を叩き出せるベッキョンだからこそ、彼の「自我」が見えにくいように思うことがあるのも、また事実。だってどんな曲をやらせても、彼は見事にそれを飲み込み、ものにしてしまうから。
彼が本当はどんな音楽をやりたくて、どんな音楽をやりたくないのか、私はすごく知りたい。いつか彼が「彼の自我」を大爆発させた音楽をやってくれたら、私はきっともっと、ベッキョンのことを好きになるだろう。
[STATION] BAEKHYUN 백현 '바래다줄게 (Take You Home)' MV
こういう曲を歌っても、まあ本当にお上手なこと…私はベッキョンの「悪女モード」も大好きだけど、こういう路線も大好きよ…